北京世界陸上へのスタートアップ!、アジア大会代表選手たちの最終調整にも注目第74回 全日本実業団対抗陸上競技選手権大会のみどころ

第74回全日本実業団対抗陸上競技選手権大会が9月11日から3日間の日程で、たけびしスタジアム京都を会場に行われる。
今年の大会は、名古屋アジア大会の直前の開催であり、エントリーをしている代表選手にとっては調整の確認を行う最後の実戦であり、また代表を逃した有力選手にとっては来年の北京世界陸上の資格記録期間に入ったこともあり、そのスタートアップの位置付けの大会となる。
ただし、参加標準記録の扱いについては、これまではワールドランキング制度の対象大会だったが、北京大会からはカテゴリC以上の大会が対象となったためカテゴリEの今大会は対象外となったが、良い記録を残しておくことはランキングアップにつながるため、重要となる点ではこれまでと変わりはないだろう。

男子の注目ポイント
今大会の注目ポイントの一つにアジア大会代表の仕上がり具合が挙げられるが、とりわけ多くのファンが気にかけていると思われるのが、男子100mと4×100mリレー代表の多田修平(住友電工)の現状だろう。
多田は今シーズンに入り、5月の木南記念の予選で追い風2.1mの参考記録ながら10秒16、2週間後の関西実業団選手権では10秒10をマーク、アジア大会代表選考会となった日本選手権では準決勝で10秒14の2着になると、決勝を10秒17で東京オリンピックイヤーの2021年以来5年ぶりに制し代表に内定と、ここまでは順調に来ていたが、日本選手権以降は7月の布勢スプリントでは10秒31、8月に入って富士北麓ワールドトライアルで10秒32、ANG福井でも10秒26と、好タイムを残す選手が相次いだ大会でもうひと息の結果に終わっており、アジア大会ホスト国の100m代表として激戦が予想される決勝に勝ち進むために、コンディションを上げていくことが求められる。
男子100mでは、今季久々に爆発的な走りが甦ってきているデーデーブルーノ(セイコー)、ANG福井で10秒10をマークして2位に食い込んだ林哉太(ノジマ)も優勝候補として注目される。

男子200mにはアジア大会4×400mリレー代表の佐藤風雅(ミズノ)がエントリー、アジア大会では400m代表を逃しており、リレーのためばかりではなく、北京世界陸上代表奪還のためよりスピードに磨きを掛けることに重きを置いているものと思われる。
今大会に出場予定の男子トラック種目のアジア大会代表はこの2名。

フィールド種目の男子アジア大会代表は、棒高跳の江島雅紀(富士通)と柄澤智哉(東日本三菱自動車販売)、円盤投の湯上剛輝(トヨタ自動車)、ハンマー投の中川達斗(山陽特殊製鋼)、やり投の﨑山雄太郎(ヤマダホールディングス)の5名。

棒高跳の江島と柄澤は共に8月にヨーロッパの大会を転戦したが、本来の跳躍を見せたとは言い難い結果だった。
国内に戻り、きっちりと立て直しを図りたいところだ。

円盤投の湯上は、例年夏場も多くの競技会に出場をしてきたが、今年は7月に国民スポーツ大会の愛知県代表選考会に出場して以降、ここまで大会出場の間隔が開いている。
アジア大会開催地の愛知・名古屋は所属企業のトヨタ自動車のお膝元であり、本番に向けしっかりと準備を進めてきたものと思われる。

ハンマー投の中川は昨年、東京世界陸上出場はならなかったが、今季は5月に韓国の木浦で行われたアジア投擲選手権を制すなど結果を残し、アジア大会代表に選ばれた。
安定感が増してきているうえ、自己ベストも73m98と74m台に迫ってきており、アジア大会本番に向け、更なる記録更新に期待したい。

やり投の﨑山は昨年、東京世界陸上に出場、今季も82m05を投じているが、やや好不調の波があり、安定した投擲が求められる。

アジア大会代表の出場のない種目では、800mの四方悠瑚(4DIRECTIONS)、源裕貴(NTN)は、5月のMDCで好記録を残しながら、日本選手権では優勝とアジア大会代表を逃しており、今大会では勝ち切ることが求められる。
5月の静岡国際で1分45秒台に突入した松本純弥(成洋産業)は、法政大学時代に400mに取り組んでいたスピードを生かした先行策を持ち味としており、レース展開と記録面での鍵を握る存在だ。

5000mには例年同様に力のあるケニア人実業団選手がエントリーしているが、塩尻和也(富士通)、鈴木芽吹(トヨタ自動車)、森凪也(Honda)らはケニア人実業団選手と国内で互角以上に渡り合い、先着できるようになって世界への扉をこじ開けており、今大会ではラストスプリントが強い鶴川正也(GMOインターネット)やアジア大会10000m代表の吉居大和(トヨタ自動車)の弟、吉居駿恭(トヨタ自動車)に期待したい。

5000m競歩にはパリオリンピック20km競歩代表の濱西諒(自衛隊体育学校)、古賀友太(大塚製薬)、男女混合リレー競歩代表の髙橋和生(ADワークスグループ)、経験豊富なベテランの丸尾知司に、伸び盛りの若手である原圭佑、土屋温希の愛知製鋼勢など実力者が多く顔をそろえており、17分59秒32の日本記録更新も期待される。

110mHにはANG福井で北京世界陸上参加標準記録の13秒17を上回る、13秒12を叩き出した野本周成(愛媛県競技力向上対策本部)がエントリー。
東京世界陸上では決勝進出に迫り、今年の世界室内選手権の60mHでは6位入賞を果たしたワールドクラスの実力者だが、日本選手権を欠場し、アジア大会代表入りはならなかった。
世界アルティメット選手権に出場する、村竹ラシッド(JAL)、泉谷駿介(住友電工)、阿部竜希(エターナルホスピタリティグループ)らとの北京世界陸上代表争いを制するためには、13秒0台以上が必要となってくる。
やはりANG福井で13秒27の好タイムをマークした横地大雅(Digverse)も、世界レベルの代表争いに割って入るためにも、年内に13秒1台に突入しておきたい。

400mHには豊田兼(トヨタ自動車)、筒江海斗(スポーツテクノ和広)、井之上駿太(富士通)、児玉悠作(ノジマ)らオリンピック、世界陸上代表経験者の名が並ぶ。
筒江は5月の木南記念で48秒55の自己ベストを叩き出したあと、GGPでも48秒65で2着となるなど好調だったが、日本選手権では49秒09の3着でアジア大会代表を逃すと、以降は8月の富士北麓で50秒07、スウェーデンでの国際大会でも50秒46と少し調子を落としており、巻き返しを図りたい。
ブダペスト世界陸上代表の児玉は日本選手権の予選では48秒84と久々に48秒台をマークしたが、決勝では8着、豊田、井之上は今シーズン、まだ49秒台を切っておらず、北京世界陸上代表争いを見据え、48秒台を出しておきたい。
また、先行力に定評のある小田将矢(豊田自動織機)も48秒台が目前に迫っており、突入の期待がかかる。

走高跳には昨年の東京世界陸上で決勝に進出した瀬古優斗(ヤマダホールディングス)がエントリー。
今季は足底部の故障もあって、苦しい大会が続くが復調なるかに注目したい。
冬の室内シーズンで2m30を跳んでいる長谷川直人(サトウ食品新潟アルビレックスRC)と真野友博(クラフティア)は8日にイタリアで行われたコンチネンタルツアーシルバーの競技会に出場したばかりとあって、出場は微妙な状況にある。

走幅跳は、山川夏輝(Team SSP)がANG福井で8m02をマーク、力のあるところを示しているが、実力者の津波響樹(大塚製薬)はシーズンベストが7m94に留まっており、7m91の自己ベストをマークし、8m台に迫っている北川凱(センコー)と共に8mオーバーを目指したい。

三段跳で今シーズン16m50オーバーを記録しているのはアジア大会代表の宮尾真仁(東洋大)ただ一人。
近年不振気味だったが、5月の東日本実業団で2.9mの追い風参考記録ながら16m51をマークした池畠旭佳瑠(飯能AC)、16m70の自己ベストを持つ安立雄斗(福岡大クラブ)、昨年16m70を跳んでいる小田大雅(XSPO TFC)には、北京世界陸上を見据え、16m50を上回る記録を期待したい。

砲丸投は森下大地(関彰商事)が昨年に引き続き好調で、19m08の日本記録を保持する奥村仁志(センコー)をしてもなかなか勝つことが出来ておらず、巻き返しなるか注目される。
二人の他にも円盤投を主戦場とする幸長慎一(四国大職)に、稻福颯(坂口捺染)も18m台を記録しており、優勝争いに加わってきそうだ。

女子の注目ポイント
女子のアジア大会代表のエントリーは男子より多く、トラック種目では100mに御家瀬緑(住友電工)、4×100mリレー代表の青木益未(七十七銀行)、三浦愛華(愛媛県競技力向上対策本部)、200mには100mと合わせ二種目代表の井戸アビゲイル風果(東邦銀行)と壹岐あいこ(大阪ガス)、400m代表の松本奈菜子(東邦銀行)、4×400mリレー代表の森山静穂(いちご)、400mには、松本、森山に加えて4×400mリレー代表の寺本葵(アットホーム)、800mに塩見綾乃(岩谷産業)と、1500m、5000m、10000mの三種目で代表の田中希実(豊田自動織機)、400mHの青木穂花(ゼンリン)、梅原紗月(住友電工)の12名となっている。

なかでも注目は200mの井戸アビゲイル風果で、富士北麓でマークした今季のシーズンベストの22秒81はアジアランキングで2位とアジア大会でのメダル獲得が見えてきている。
本番を直前に控え、22秒79の自己ベストを更新し、メダル獲得に弾みを付けられるか期待したい。

100mの御家瀬は日本選手権の優勝こそ井戸に譲ったが、今季は11秒33に自己記録を更新するなど好調で、11秒2台も視野に入っている。
また君嶋愛梨沙(土木管理総合試験所)はアジア大会代表を逃したが、ANG福井では11秒38で優勝と調子を上げてきており、やはりその実力は侮れない。

400m代表の松本は、アジア大会での51秒台突入を見据え、200mでトップスピードに磨きを掛けたい意図があるものと思われる。
400mでは本番に向け52秒台前半は出しておきたい。
4×400mリレー代表の森山、寺本については、東京世界陸上の混合4×400mリレーで8位入賞メンバーとなった井戸の負担を極力軽減するためにも、自身の自己ベストを上回る53秒前半から52秒台の記録が期待される。

800mの塩見は今シーズン安定した力を見せており、アジア大会本番を見据えシーズンベストの2分1秒67を更新しておきたい。
田中希実はアジア大会を前に刺激を入れる目的があったと思われるが、8日にイタリアの競技会で1500mに出場し、シーズンベストの4分3秒00をマークしており、出場回避も考えられる。

400mHの青木は日本選手権を55秒92の自己ベストで制したあとも、富士北麓で56秒58をマークと好調を維持、梅原も同じく富士北麓でハードルのない400mに出場し54秒39のセカンドベストと、ここまで順調な調整ぶりを見せている。
また代表には届かなかった新戸怜音(VIDA)が8月のトワイライトゲームズで56秒75の自己ベストを記録し、翌日の富士北麓でも56秒78と青木に際どく迫るなど進境を示しており、優勝争いに加わってきそうだ。

フィールド種目のアジア大会代表のエントリーは、走高跳の髙橋渚(センコー)と石岡柚季(日女体大AC)、棒高跳の諸田実咲(アットホーム)と大坂谷明里(愛媛県競技力向上対策本部)、走幅跳の髙良彩花(JAL)と秦澄美鈴(住友電工)、三段跳の船田茜理(ニコニコのり)、円盤投の郡菜々佳(ニコニコのり)、ハンマー投の村上来花(ゼンリン)、やり投の武本紗栄(オリコ)の10名。

特に女子やり投はポーランドで行われたコンチネンタルツアーブロンズの競技会で63m50をマークしていち早く63m40の北京世界陸上参加標準記録を突破した上田百寧(ゼンリン)がエントリーしており、アジア大会代表の武本としては、この上田を降して勢いを持って本番に臨みたいところ。

走高跳で昨年東京世界陸上に出場し、決勝には進めなかったものの進出ラインと同じ1m88をクリアした髙橋の今季のシーズンベストは日本選手権でマークした1m86、今季大幅自己ベスト更新を果たした石岡も1m86、アジア大会で上位進出を果たすためには1m88をクリアする必要がありそうだ。

三段跳の船田も日本選手権を制してアジア大会代表を掴んだが、7月に髙島真織子(クラフティア)が国内3人目の14mオーバーとなる14m04をマークしており、代表としてその髙島を降して名古屋に乗り込みたいだろう。

ハンマー投の村上はアジア大会代表を掴んだ日本選手権で記録した68m13の自己ベストを、翌月に行われたオルドスU23アジア選手権で68m83に更新。
アジアランキングでも中国勢に次ぐ存在となりつつあり、70mオーバーも視界に入ってきている。

また、走幅跳の秦澄美鈴(住友電工)は、2023年に7mが目前に迫る6m97の自己ベストをマークした頃の跳躍がなかなか戻ってこないが、復活に期待したい。

人気種目の100mHにはこの種目のアジア大会代表の福部真子(日本建設工業)、中島ひとみ(長谷川体育施設)が出場を回避した中、4×100mリレー代表に選ばれた青木がエントリー。
青木はここ数年故障に悩まされていたが、今シーズンは日本選手権後の富士北麓で日本歴代2位の12秒68をマークと、その不安がなくなればまだまだ代表クラスの実力があることを示している。
本職のこの種目では北京世界陸上代表争いを見据え、さらなる記録更新を狙ってくるかもしれない。
青木のほか、今季は大松由季(サンドリヨン)が日本選手権の予選で12秒96をマークしているが、昨年に12秒77の自己記録をマークした清山ちさと(いちご)を始め、本田怜(水戸信用金庫)、島野真生(渡辺パイプ)といった12秒台の記録を持つ選手たちが、今シーズンは13秒台に留まっており、今大会で12秒台を目指したい。

また、男子4×100mリレー予選にはオープン参加として日本代表もエントリー、桐生、多田の他、小池祐貴(住友電工)に学生の小室歩久斗(中央大)、林明良(慶應義塾大)がメンバーに登録され、バトン精度の向上を図る。

前週の日本インカレでは2日目以降、天候に恵まれなかったが、アジア大会を目前に控えた全日本実業団選手権では好天となることを願っている。

文/芝 笑翔

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