初マラソン日本最高記録を更新した矢田みくにに「マラソンの走り方」を授けた、安藤友香の献身度

大阪国際女子マラソンで初マラソン日本最高記録をマークした矢田みくに(エディオン)のレース後のインタビューの際、マラソンに向けての練習で安藤友香(しまむら)と共に走る機会があった際、走り方についてのアドバイスを受けたエピソードが紹介された時、ああなるほど、と腑に落ちる思いを抱きつつ、安藤の過去の二つのレースに思い当たった。

一つは2020年12月に、東京オリンピック選考会として行われた第104回日本選手権10000mだ。
安藤はマラソン代表を逃し、10000m代表に残る可能性を見出そうとしている時だったが、レースは新谷仁美(積水化学)がオリンピック参加標準記録も、渋井陽子(三井住友海上)が2003年にマークした、30分48秒89の当時の日本記録をも大きく上回るハイペースで飛ばしに飛ばし、8000m手前では31分台半ばのペースで走っていた安藤さえも周回遅れになるところだったが、ここで安藤は新谷の背中にピタリと取り付く意地を見せた。
快走していた新谷も、出場する選手のほとんどを周回遅れにしながらも表情は厳しくなり、やや疲れが見えていたところで、3周に渡って安藤から背中を押される恰好となったことで落ちかけていたペースを取り戻したように見えた。
おそらく新谷はペースを落としてもオリンピック参加標準記録を突破し、渋谷の日本記録も更新していたものと思われるが、なだらかにペースが落ちかかったところでの安藤の「後押し」には助けられた思いがあったかもしれない。
新谷のこの日の走りが今も破られていな30分20秒44の大記録となったのは、安藤の「後押し」も大きく作用していただろう。

もう一つは東京オリンピック代表最終選考会となった、2021年5月の第105回日本選手権10000m。
オリンピックへのラストチャンスに31分25秒00の参加標準記録の突破を目指し、これが2度目の10000mレースだった廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ)のハイペースの果敢な突っ込みに、前年の日本選手権10000m以降トラックでのオリンピック代表を目指して調子を上げていた安藤が続き、5000mを15分28秒と標準突破ペースに10秒以上の貯金を作って通過した。
5000mを過ぎると、安藤はこの距離の経験がまだ浅い廣中の前に出たのだが、その動きはそれまでレースを引っ張ってくれた廣中に対し、「共にオリンピック出場を目指す」ことを、その背中で伝えているようにも思われた。
また廣中としても、前半の5000mで標準突破ペースから大きな貯金を作ってレースを進めることができたのは、力のある安藤の存在があったからだったのかもしれない。
8000mまで安藤が引っ張ると、安藤の後ろで「休む」ことが出来た廣中は2周ほどの並走の後、再びペースを上げて31分11秒75で標準記録を突破して優勝を果たすと、安藤も31分18秒18と標準記録突破して2着に続き、共に東京オリンピック代表を勝ち取った。
フィニッシュ後、廣中が安藤に歩み寄ると、安藤は廣中の両手を取って深々と頭を下げ、「有難う」と声を掛け、廣中もお辞儀を返すと再び有難うと言い、互いの肩を抱き合った。
代表内定のインタビューでも廣中が「2戦目の10000mだったので、挑戦者として先輩の胸を借りるつもりで闘った」と話すと、安藤も「廣中選手が良いペースで引っ張ってくれたので最後まで諦めずに走る事ができた」と応じていた。

また、安藤は東京オリンピックマラソン代表選考のファイナルチャレンジとなった2020年の名古屋ウィメンズマラソンの際も、自身2番目の好タイムで走りながら、代表に届かなかったにも関わらず、2時間20分29秒で選考基準を満たして優勝を果たし代表に内定した、当時同じワコールに所属する後輩だった一山麻緒(資生堂)に対し、おめでとう、と声を掛けたあと、「私も麻緒ちゃんがいたから頑張れた」と語っており、パリオリンピック最終選考会となった2024年の名古屋ウィメンズマラソンで、2時間21分36秒の初マラソン日本最高記録を叩き出した2017年名古屋ウィメンズマラソン以来7年振り自己ベスト更新となる2時間21分18秒で初優勝を遂げながら、オリンピック代表には届かなかった際も、レース後の記者会見で、「先頭集団から離された時は、苦しくて足が前に出なかったが、加世田選手がいてくれたので、自分が苦しい時は皆も苦しいのは同じなのだから、一緒に前を追って頑張ろうと思うことが出来た」と、このレースで30㎞手前から、先頭集団を追って共に走った加世田梨花(ダイハツ)にエールを贈っている。

安藤友香は初マラソン日本最高記録で脚光を浴びたが、その後は思うような結果を出せないレースが続いたこともあった。
不振から抜け出した時に、自身がどういった事に助けられ、何に力を与えてもらったのか、そして自身に何ができるのかに気付いたのではないか。
そういう安藤だからこそ、初マラソンを控え不安を抱く矢田にも真摯に向き合い、マラソンの走り方を惜しみなく授けたのではないだろうか。

大阪国際女子マラソンで、安藤が保持していた初マラソン日本最高記録を上回った矢田は、尊敬する選手に安藤を挙げている。
現在の国内女子長距離界への安藤の献身度は、私たちファンが思っているよりも、ずっと大きなものなのかもしれない。

文/芝 笑翔

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