愛知・名古屋アジア大会代表を懸けた三日間の熱い闘い!第110回日本陸上競技選手権大会初日の展望

第110回日本陸上競技選手権大会が、6月12日から三日間の日程で行われる。

今年の大会は今秋開催される愛知・名古屋2026アジア競技大会 日本代表選手選考競技会を兼ねており、アジア大会のメイン会場として新装となったパロマ瑞穂スタジアムがその舞台となる。
ここまで日本グランプリシリーズや各地区インカレ、実業団選手権などの代表選考参考競技会で各種目2枠の代表争いが繰り広げられてきたが、今大会ではここまでに各種目ごとに定められた代表派遣設定記録を突破した選手、あるいは今大会で突破した選手が優勝すれば代表に内定する。

大会初日の決勝種目は男子3000m障害、女子5000mのトラック2種目、女子棒高跳、男子三段跳、男子走幅跳の跳躍3種目、男女円盤投と女子やり投の投擲3種目の計8種目となっている。
また、注目度の高い男子100m、女子100mHの予選、準決勝も組み込まれ、決勝進出を目指す激しい争いが繰り広げられるだろう。

初日の決勝種目の展望
男子3000m障害では、既に三浦龍司(SUBARU)が昨年の東京世界陸上で8位入賞を果たし代表に内定を果たしており、残る1枠を派遣設定記録の8分25秒83をクリアしている青木涼真(Honda)、新家裕太郎(愛三工業)、佐々木哲(早稲田大)の3人、そして派遣設定を上回る自己記録を持つ小原響(GMOインターネットグループ)が争うことになりそうだ。
小原には優勝だけでなく派遣設定突破も求められるため、序盤から速いペースとなることも充分考えられ、誰になるにせよ、レース後に二人目の代表内定選手が決まっている可能性が高い。

女子5000mでは田中希実(豊田自動織機)が先週に行われたダイヤモンドリーグローマ大会で15分12秒91をマークして派遣設定記録を突破、今大会で優勝を果たせば代表内定となる。
今シーズンは例年に比べれば好不調の波が大きく、またスケジュールがタイトな点が気になるが、実績面でも記録面でも他の選手を寄せ付けない優勝候補であることを疑う余地はない。
エントリー選手中、田中に次ぐ二番目に速い自己ベスト、15分6秒98を持つ水本佳菜(エディオン)は、今季ここまでリザルトを残しておらず、いきなり日本選手権で結果を求めるのは少し酷かもしれない。
パリオリンピックとブダペスト、東京の世界陸上二大会で代表を経験している山本有真(積水化学)も水本と同様に今季ここまでトラックでのリザルトがなく、この大会に向けてどこまで仕上げてきているか。
日本記録を持つ3000m障害と合わせて二種目にエントリーしている齋藤みう(パナソニック)は、5000mの自己ベストも15分11秒01と力を付けてきており、ダークホース的存在だ。

女子棒高跳では、今年の木南記念で日本記録を4m50に更新した諸田実咲(アットホーム)が優勝すればアジア大会代表となる。
4m31の自己記録を持つ小林美月(日本体育大)、今季4m25の自己記録をマークしている大坂谷明里(愛媛県競技力向上対策本部)は諸田に食らい付き、まずは自己記録更新を目指していきたい。

男子三段跳はここまで16m55の派遣設定記録に届いた選手がなく、アジア大会代表内定には突破しての優勝が求められるが、16m39の自己ベストをマークするなど今季好調の宮尾真仁(東洋大)、昨年の第109回大会を16m67で制している山下航平(ANA)、16m70の自己ベストを持つ昨年のワールドユニバーシティゲームス代表の安立雄斗(福岡大クラブ)がその候補として挙げられる。
また16m75の自己ベストがあり、第104回大会、第107回大会と過去2度の優勝を誇る池畠旭佳瑠(駿河台大AC)も先月の東日本実業団選手権で追い風参考ながら16m59をマークと近年の不振から復調してきている。

男子走幅跳は先月のセイコーゴールデングランプリを8m22で制した橋岡優輝(富士通)を筆頭に、伊藤陸(スズキ)、藤原孝輝(東洋大)、津波響樹(大塚製薬)の4人が7m93の派遣設定記録を突破しているが、実績面でも、今季の調子からも橋岡が一歩、二歩抜け出している。
また、派遣設定記録に迫る7m92を記録している関根拓真(国際武道大)、7m91をマークした北川凱(センコー)が上位争いに割って入れるかにも注目したい。

代表派遣設定記録の60m72をクリアする選手が出ていない女子円盤投は、その派遣設定記録と同じ60m72の日本記録保持者、郡菜々佳(ニコニコのり)が優勝候補の本命。
今季は4月にアメリカのオクラホマスローシリーズで59m23を記録しており、日本記録更新での代表内定に期待が懸る。
ブダペスト世界陸上代表の実力者で、今季は5月に韓国の木浦で行われたアジア投擲選手権で3位となっている齋藤真希(太平電業 )が郡を追う。

男子円盤投は昨年の東京世界陸上代表、湯上剛輝(トヨタ自動車)が4月にオクラホマスローシリーズで派遣設定記録の63m55を上回る65m38の日本記録を打ち立てたが、アジア大会代表選考要項に照らし合わせると、この競技会がWAの大会カテゴリD以上とする参考競技会に当てはまらず、今大会で改めて突破を果たして優勝し、代表内定を得られるかが焦点となる。
また、今季61m94をマークしている幸長慎一(四国大AC)も派遣設定突破までもう一歩のところまで来ている。

女子やり投はブダペスト世界陸上、パリオリンピック金メダルの北口榛花(JAL)がまだ本調子ではないが、セイコーゴールデングランプリで60m36を記録し、60m25の派遣設定記録を突破したほか、4月の織田記念で61m45を記録した山元祐季(高田工業所)、ゴールデングランプリで北口を上回る61m40を投じた上田百寧(ゼンリン)、同大会で60m45をマークした斎藤真理菜(スズキ)の4人が派遣設定をクリアし、レベルの高い争いが期待されるが、やはり1にも2にも北口がゴールデングランプリからどれだけコンディションを上げているかが最大のポイントだろう。

初日から予選が始まる男子100mは個人種目のみならずリレー代表の最重要選考競技会となっている。

5月に行われた世界リレーで、来年の北京世界陸上4×100mリレーの出場資格を得られず、フランスやブラジル、ナイジェリアなどと残り2枠をタイムで争わなければならない大ピンチに陥っている代表チームだが、世界リレー代表の桐生祥秀(日本生命)、守祐陽(渡辺パイプ)、今季好調の小池祐貴、多田修平(住友電工)、復活に賭ける山縣亮太(セイコー)といった実力者たちだけでなく、若手選手からも坂井隆一郎(大阪ガス)、栁田大輝(Honda)の故障離脱の痛手を補う救世主が現れることを期待したい。
今季10秒08をマークしている小室歩久斗(中央大)、5月に行われた東日本実業団選手権を10秒14で制している三輪颯太がその候補だ。

女子100mHは東京世界陸上代表の福部真子(日本建設工業)、田中佑美(富士通)、中島ひとみ(長谷川体育施設)が顔を揃えるうえ、それぞれ今シーズンのベストも福部が12秒85、田中が12秒81、中島が12秒78とコンディションも上がってきている。
更に昨年、東京世界陸上代表へ向けて、期限ぎりぎりまで参加標準記録の突破を目指した清山ちさと(いちご)もアジア大会代表に執念を燃やし、東京オリンピック代表の青木益未(七十七銀行)も5月末に行われた日大記録会で12秒90をマーク、近年悩まされていた脚の故障からの復調を感じさせ、また東日本実業団選手権で12秒94と13秒切りを果たした村岡柊有(NSD.)が台頭し、今年も予選からハイレベルなレースが見られることになりそうだ。

また、男女の800m予選も編成されており、男子は5月末のMDC東京大会で1分43秒45の日本記録を打ち立てた落合晃(駒澤大)こそ、海外遠征を選択し欠場となったが、同大会で日本歴代3位の1分44秒94をマークした四方悠瑚(4DIRECTIONS)を筆頭に、タイムは省略するが、源裕貴(NTN)、萬野七樹(関西大)、田邉奨(中央大)、岡村颯太(鹿屋体育大)、松本純弥(成洋産業)、金子魅玖人(ARCYELL)が既に派遣設定記録を突破して代表のチャンスが出てきており、予選からも目が離せない。

女子は1分59秒52の日本記録を保持する久保凛(積水化学)、2分1秒01の自己ベストを持つ塩見綾乃(岩谷産業)が派遣設定記録の2分1秒67の突破で優勝を果たしての代表内定を目指す。

第110回日本陸上競技選手権の注目選手①
男子走幅跳 橋岡優輝(富士通)

東京オリンピック男子走幅跳6位入賞の橋岡優輝が今季に入り、3月末の日大競技会で8m12、4月にはアメリカ、カリフォルニア州で行われたマウントサックリレーズで8m11、そして先月のセイコーゴールデングランプリでは8m22と出場3大会連続で8m台を記録、近年陥っていた不振から抜け出してきたようだ。
東京オリンピックの翌年、予選を8m17のトップで通過しながら決勝は7m86でトップ8に残れず10位に終わった2022年オレゴン世界陸上を機に、東京で果たせなかったメダル獲得をパリオリンピックで果たすために助走の改良に着手したが、これが思ったようには嵌らず、2023年のブダペスト世界陸上に続き、翌2024年のパリオリンピック、そして昨年の東京世界陸上でも好調時のビッグジャンプは戻らず、予選通過を果たせなかった。
それが今年に入り上記のように3戦連続8mオーバー、特にゴールデングランプリではスピードと力強さを増した助走が噛み合い、1本目から8m13、2本目に8m22と東京オリンピック直前の頃の絶好調だった橋岡の試合運びが戻ってきたように感じられた。
ここから最終の6本目にかけて更に記録を伸ばすことができていれば完全復活と言えたのだが、この日はやや力みが入り、2本目の8m22がリザルトとなった。

助走の改良も、アメリカに拠点を移したのも、指導を受けるコーチを変えたのも全ては東京、パリで届かなかったオリンピックでのメダル獲得を2028年のロサンゼルスで果たすため。
8m32の日本記録をマークした2019年のANG福井から7年、最終6回目で8m36の自己ベストをマークし、東京オリンピック代表を決定づけた2021年の日本選手権から5年、その時以来の自己記録更新で完全復活を果たし、アジア大会代表となってロサンゼルスオリンピックへの道を切り開くことを期待したい。

第110回日本陸上競技選手権の注目選手②
女子100mH 村岡柊有(NSD.)


東京世界陸上代表の福部真子、田中佑美、中島ひとみに東京オリンピック代表の青木益未、日本歴代3位の12秒77を自己ベストに持つ清山ちさと、一昨年に12秒94をマークした大松由季(サンドリヨン)、更に昨年本田怜(水戸信用金庫)が12秒91を叩き出し、島野真生(渡辺パイプ)も12秒97をマークと記録水準が上がっている国内女子100mHで今季に入り東日本実業団選手権で12秒94をマークした村岡柊有(NSD.)が新たに台頭してきた。

村岡は北海道の出身、恵庭北高時代は1年時、2年時にインターハイに出場したが2年時の準決勝進出が最高成績で、3年時には出場が適わなかった。
北海道教育大に進んだ後も1年時は日本インカレ出場を果たせず、2年時、3年時も予選通過を果たせていなかった村岡だったが、4年時の2021年、予選通過を果たすと準決勝では13秒37の好タイムで決勝に進出、決勝でも13秒38で5着と健闘し、一気に知名度を上げた。
大学を卒業し、北海道ハイテクACに進んだ村岡は2022年に日本選手権に初出場、結果は予選落ちに終わったが、7月には日本グランプリシリーズの南部記念で13秒37の自己ベストタイで3位となって実力が備わってきていることを証明した矢先に故障に見舞われ、以降は2023年、2024年と思うような結果が残せずにいた。

北海道ハイテクACを退団し、NSD.の所属となった2025年、5月の北海道学連記録会で13秒54、東日本実業団選手権では13秒46と復調の兆しを見せると、7月、二度目の出場となった日本選手権では13秒32の自己ベストをマークして準決勝に進出、9月の全日本実業団選手権では12秒99の青木益未、13秒00の清山ちさとに続き、13秒12で3着と、復活にとどまらない大躍進でシーズンを終えた。
そして今年、3月早々の沖縄春季競技会で13秒19をマークすると、福部、中島ら錚々たるメンバーが揃った木南記念で13秒06の自己ベストで6着、更に1週間後の東日本実業団選手権でついに13秒を切る12秒94と、レベルの高いこの種目のなかにあって急激に記録を伸ばし、今最も勢いを感じさせる選手だ。
急成長を見せる村岡が3度目の日本選手権でどのような結果を残すのか、楽しみだ。

文/芝 笑翔

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