愛知・名古屋アジア大会代表を懸けた三日間の熱い闘い!第110回日本陸上競技選手権大会最終日の展望

第110回日本陸上競技選手権大会最終日、トラック種目では女子3000m障害、女子1500m、男子400m、男女の400mH、男女の200m、男子5000m、そして男子110mHの決勝が行われる。

女子3000m障害は昨年、東京世界陸上で9分24秒72の日本記録をマークした齋藤みう(パナソニック)が5月の静岡国際陸上で9分31秒83をマークして9分37秒26のアジア大会代表派遣設定記録を突破しており、優勝すれば代表に内定する。
大会初日に5000mに出場し、15分11秒30のセカンドベストで3位と健闘した疲労がどこまで回復しているかが気がかりなところだが、昨年の日本選手権ではレース中盤で転倒して優勝を逃しているだけに、勝ち切ってアジア大会代表を手にしたいところだろう。
昨年の日本選手権を制した9分39秒28の自己ベストを持つ西山未奈美(三井住友海上)、2022年第106回大会で9分38秒95をマークして2位に入っている西出優月(ダイハツ)は、自己ベストを上回る派遣設定記録を突破して齋藤に勝つことが求められる。

女子1500mは大会初日に行われた5000m決勝で、山本有真(積水化学)に五連覇を阻まれた田中希実(豊田自動織機)が二日目に行われた予選で4分6秒43をマークし4分7秒68の派遣設定を突破、優勝すればアジア大会代表内定となる。
今シーズン好不調の波が大きく、もどかしい状況が続いているが勝てば七連覇、代表内定を得ることで、喪失気味の自信を少しでも取り戻して欲しい。

男子400mは予選通過ラインが45秒68、昨年の東京世界陸上の混合マイルリレーでの8位入賞と、5月に行われたボツワナ世界リレーの男子マイルリレーで北京世界陸上への出場権獲得に貢献した吉津拓歩(ミキハウス)が45秒83で決勝進出を逃すなど、3人が45秒台をマークしながら予選敗退となり、佐藤拳太郎(富士通)、佐藤風雅(ミズノ)、中島佑気ジョセフ(富士通)が次々に44秒台を叩き出したことにつられるように、国内の競技水準も相対的に上がってきたことが感じられた。
中島が既に代表に内定しており、決勝進出を果たした7人が残り1枚の代表切符を争う状況だが、林申雅(筑波大)が日本歴代5位の44秒98で予選トップ通過を果たしており、決勝でも予選の再現が出来れば、中島を破っての代表内定、といったことも起こるかもしれない。

女子400mHも、5名が56秒台をマークし、一昨年まで四連覇を果たしていた山本亜美(富士通)が57秒54でも決勝進出を逃すハイレベルな予選となり、この種目全体としてのレベルアップが感じられたが、アジア大会派遣設定記録にはまだ届いておらず、トップ層の記録の向上が求められるところ。
予選で日本歴代8位の56秒49を叩き出しトップ通過を果たした青木穂花(ゼンリン)や、56秒43で昨年の日本選手権を制している梅原紗月(住友電工)が、56秒16の派遣設定記録に届くか、注目だ。

男子400mHでは高校2年生の後藤大樹(洛南高)が為末大の49秒09の高校記録を大幅に更新する日本歴代5位となる48秒31の大爆走で予選をトップ通過、本人も偉業達成後のインタビューで、「ここまできたら内定を目指して大人の選手たちに食らい付いて行きたい」と語り、大会最終日に来て最大ともいえる注目の種目となってきた。
後藤の指す大人の選手たち、今シーズン48秒35をマークして復活を果たした東京オリンピック代表の黒川和樹(住友電工)、パリオリンピック代表の筒江海斗(スポーツテクノ和広)、豊田兼(トヨタ自動車)らは、決勝では当然のようにギアをもう一段上げて立ちはだかるであろうし、予選とは緊張感も全く違ってくるものと思うが、雰囲気に飲まれることなく思い切ったレースを見せて欲しい。

女子200mは井戸アビゲイル風果(東邦銀行)が予選で23秒01をマークし、23秒03の派遣設定記録を突破、優勝すればアジア大会代表に内定する。
井戸は200mの予選後に行われた100m決勝を制しており、2年連続スプリント2冠も懸っている。

男子200mは派遣設定記録の20秒48を突破した選手がセイコーゴールデングランプリで20秒33をマークした鵜澤飛羽(JAL)のみだったが、その鵜澤が欠場となったなか、昨年の東京世界陸上代表の水久保漱至(宮崎県スポーツ協会)が予選で日本歴代2位となる20秒07を叩き出した。
故障に悩まされることも多い水久保だが、体調が万全であれば爆発力は比類なく、もう一本しっかりと走り切って代表内定を得ることができれば、4×100mリレーでも救世主になるかもしれない。

また、林明良(慶應義塾大)が20秒36、舟木宝月(大東文化大)が20秒39で派遣設定記録を突破しており、水久保を破り優勝することができれば代表に内定する。

男子5000mでは5月のゴールデンゲームズで13分14秒18をマークし、ただ一人13分14秒36の派遣設定記録をクリアしている森凪也(Honda)が初日に行われた予選を通過し、優勝すれば代表となる。
東京世界陸上を経験した森は、レースをコントロールしながら余裕をもって予選通過、ラストスプリントにも自信を持っており、勝負重視でスローペースとなれば、勝機が高くなりそうだ。
実力者の塩尻和也(富士通)は優勝と共に派遣標準の突破も目指さなければならず、自らレースを作っていく必要があるだろう。

大会最終種目となる110mHは、既に村竹ラシッド(JAL)が代表に内定しており、残る一枠を巡る争いとなっている。
東京世界陸上代表の野本周成(愛媛競技力本部)が欠場、予選では期待の若手、古賀ジェレミー(順天堂大)がハードルに脚を掛けて大きくバランスを崩して失格となり、ブダペスト世界陸上5位入賞の泉谷駿介(住友電工)と昨年のワールドユニバーシティゲームズの金メダリストの阿部竜希(エターナルホスピタリティグループ)の一騎打ちの様相だ。

準決勝では阿部が13秒18で、13秒25の泉谷を抑えて1着となっており、泉谷としては巻き返しを図りたいところ。
この二人に横地大雅(Digverse)がどこまで食らい付いていけるかにも注目したい。

跳躍種目の決勝は女子三段跳と男子走高跳。

女子三段跳はこれまでのところ13m86の派遣設定記録を上回った選手がなく、突破しての優勝が必要となっている。
東京世界陸上代表の髙島真織子(クラフティア)が4月の織田記念で脚を痛め、ゴールデングランプリも欠場、今大会は復帰戦となるが、どれだけコンディションを戻せているか。
一昨年まで六連覇を果たしていた14m16の日本記録を持つ森本麻里子(オリコ)の復調、13m87の自己ベストを持つ船田茜理(ニコニコのり)の爆発力にも期待したい。

男子走高跳は、東京世界陸上8位の赤松諒一(SEIBU PRINCE)が代表に内定しており、残り1枠の争い。
昨年の世界室内選手権で7位に入賞している長谷川直人(サトウ食品新潟アルビレックスRC)、今年の世界室内で5位入賞の真野友博(クラフティア)、今年の静岡国際を制した坂井宏和(センコー)、ゴールデングランプリ優勝の渋谷蒼(Team猿魂)が2m24の派遣設定をクリアしており、優勝すれば代表内定となるが、今年に入ってからは大会ごとに優勝者が入れ替わっており激戦が予想される。
東京世界選手権代表の瀬古優斗(ヤマダホールディングス)は2m24をクリアしての優勝が代表内定の条件となっているが、痛めている足首の故障からの回復が鍵になりそうだ。

投擲種目の決勝は男女砲丸投。
男子の派遣設定記録は20m27と奥村仁志(センコー)の持つ19m09を大きく上回る厳しい水準となっている。
奥村や、今季自己記録を18m67に伸ばし好調の森下大地(関彰商事)にはまず19mオーバーを目指してもらいたい。

女子も男子同様に派遣設定記録が17m70と、自己記録が15m台後半の坂ちはる(大阪体育大)、大迫晴香(染めQ)、奥山琴未(岡山商科大)にとっては厳しい設定となっており、自己ベストを更新しての優勝が現実的な目標だろう。

ここまでアジア大会代表に内定した選手は初日6名、二日目8名の14名、最終日にこの数字をどこまで伸ばすことができるか、期待したい。

第110回日本陸上競技選手権大会注目選手④
女子3000m障害 齋藤みう(パナソニック)

女子3000m障害を主戦場とする齋藤みうは昨年、積極果敢なレースぶりで金栗記念を制すなど、急成長でWAランキングを上げ、順位ポイントの高い日本選手権で優勝すれば東京世界陸上の出場圏内に入ることが有望視されていた。
しかしながらその日本選手権では勝負を意識してか、持ち味となっていた早い段階で先頭に立つことをせず、集団の中で慎重にレースを進めていたが2周目のバックストレートで障害を越える際に転倒、すぐに上がろうとしたが後続の選手と接触し、大幅な遅れをとることとなった。
終盤に追い上げを見せたものの2位に留まり、レース後には涙に暮れた。

齋藤はこの悔し涙を、成長へのモチベーションに変えた。

ランキングでの出場資格は得られず、開催国枠で出場を果たした東京世界陸上では、決勝進出こそならなかったが、これまで経験をしたことの無かった世界の早いペースのレース展開の中で前半は集団後方に食らい付き、集団から遅れたあとも粘りに粘って日本人女子選手初の9分30秒切りとなる、9分24秒72の日本記録でフィニッシュ。
その後、11月には5000mでも自己記録の15分11秒01、初挑戦となった10000mでも30分台に迫る31分08秒28とフラットレースでも国内トップクラスに成長、今大会の5000mでは15分11秒30のセカンドベストで3位となり、表彰台に立った。

ハードルを越える際は、軽く脚を掛けて飛び出し、接地のバランスも良く、左右にぶれることなくスムーズに次の一歩を繰り出せるところは男子の三浦龍司(SUBARU)を彷彿とさせる。
地の走力が上がった現在、メイン種目の3000m障害ではどういったタイムが出るのか。
静岡国際では大事には至らなかったが、中盤に水濠を越える際に脚を滑らせて転倒があったにもかかわらず、9分31秒83の自己ベストで走っている。

味わった悔しさが飛躍のきっかけとなった日本選手権の舞台で、今度は日本記録の更新で適わなかった優勝を果たすことができれば、アジアから世界へと続く道が開く。

文/芝 笑翔

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